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第47回 地域密着! トップインタビュー/熱産ヒート株式会社 代表取締役社長 川口千恵子様
創業50周年を迎えた熱産ヒート株式会社。溶接時の予熱・焼鈍を中心に熱処理技術のエキスパートとして北九州をはじめ日本のモノづくりを支える、知る人ぞ知る研究開発型企業です。新たな開発技術を携えてこの秋には大阪万博にも出展予定。今回は2代目を継ぐ川口千恵子社長に、会社の歩みや人材育成の取り組み、意外に身近な熱処理技術についてお話を伺いました。
ピンチに駆けつけて技術で救う姿、
映画のヒーローみたいにカッコいいんです。
■創業50周年おめでとうございます。今年は大阪万博(2025年日本国際博覧会)にもご出展されると伺いました。御社はSDGsにも取り組まれておられ、万博と目指すものも合致しますね。
川口氏:ありがとうございます。実は万博出展の夢が先で、そこから逆算のSDGsだったんです(笑)。2018年に、目指したい姿を可視化するドリームマップというものを社内の皆で作成したのですが、そのときに「万博に出たい!」という声が上がりまして。そこから〈熱産ヒートが世界をCOOLに〉と掲げて取り組みを続けてきました。
■始まりは社員の方からだったのですね。御社サイトに〈熱のエキスパート集団〉とありますが、事業内容をご紹介いただけますか。
川口氏:ひと言で表すなら「加熱屋さん」です。鉄をはじめ様々な金属を熱によって加工しやすい状態にする装置の開発・製造、またお客さまの現場に出向いて熱処理まわりの施工も行います。金属と金属を熱でつなぎ合わせる溶接という作業がありますが、いきなり何千度もの熱で溶接を始めると金属は変形したり割れてしまうんですね。それを防ぐには溶接に適した温度まで加熱して一定温度を保持する「予熱」処理、また溶接時の応力除去のために、加熱・冷却速度を調整する「焼鈍(しょうどん)」と呼ばれる処理が必要になります。金属の種類や作業によって最適な温度条件がそれぞれ異なり、各現場で求められる予熱・焼鈍をご提供するのが私たちの仕事です。
■取引先はどのような業種なのでしょうか。
川口氏:製鉄所、発電所、造船所、橋や自動車など重工業系のお客さまが中心です。金属で何かをつくるには必ずというほど溶接作業があり、そこには熱処理が必要になるので。
■日常生活で利用しているものをつくる工程に欠かせない技術なのですね。どのような経緯で熱処理の専門企業になられたのですか。
川口氏:創業者は実父です。溶接材料の商社勤めを経て、昭和50年(1975)に溶接処理と溶接機の販売商社として創業しました。北九州で大手の取引先を開拓するうちに、やはり溶接には予熱が欠かせないんですね、「予熱装置を作らないか」と相談いただいて。父も事業を差別化する強みが必要と考えていた時期で、がむしゃらに開発メーカーへ舵を切ったと聞いています。最初は外注先に連携をお願いしてヒーター関係の制御装置、次は電気炉など箱ものができるようになり、次いで高速で効率的に加熱できる誘導加熱(IH)を開発して…と熱源を広げていって。私が入社したのもIH開発の頃でした。
■当初から後を継ぐご予定だったのでしょうか。
川口氏:それが全く違うんですよ。学生時代の私の人生プランは、自分で決めた企業に就職して、結婚して出産・育児をして、子どもが手を離れた頃に父の会社に入っちゃろう、と。「入っちゃろう」って生意気に(笑)。それで卒業後は印刷会社に営業職として就職しました。地元の印刷会社だったので、自分が営業を担当したチラシが家の新聞に折り込まれてくるんですね。すると、嬉しくて家で言うわけです、「これは私が営業でとった広告よ」って。それを聞いて、父は私が営業職に向いていると思ったらしいです。
まだ世の営業職に女性が少なく、それが鉄の業界となると皆無に近い時代でしたが「娘だからトライさせてみよう」と。当時、弊社の営業職は金額が大きい設備の販売に力を入れていましたが、父としては少額商品もコツコツ販路を増やしたかったようで細かい営業を娘にさせてみようと考えたようです。私は印刷会社が楽しかったので半ばしぶしぶ(笑)。
でも、お客さまに関わっていくうちにすぐのめり込みました。前職が印刷会社なので、父に「これは何の装置?何に使うん?」と教わりながらまず製品のカタログを作り直して、できあがったカタログと小さいデモ機なんかを持って営業して回りました。
■社長のご就任が2008年ですね。
川口氏:営業職を10年ほど経て、父が65歳、私が34歳の時に「社長と呼ばれる仕事をしてみなさい」と取締役社長のお役目をいただきました。営業として10年間、仕事をとってきていたのがよかったんでしょう、文句は聞こえてきませんでした(笑)。技術職とは営業先へ同行してもらう機会も多く、共に仕事をしてきましたので。代表取締役に就任する頃には取引先の方々もご出世されて、共に成長というと大変おこがましいですが「お互いに若かったね」と今も心強い存在です。
■御社は人材育成にも尽力されている印象ですが、取り組みについてお聞かせください。
川口氏:最近の取り組みでいうと月1回「熱産フューチャーラーニング」という場を設けています。例えば、未来読書と呼んでいる読書発表会では未来に関連する本を読み内容を要約して皆に発表します。発表者、聞く人、進行役の担当を私も含めて皆で順番に回して。自分で考えて話を要約し、第三者に伝える力はどんな場にいっても本人の役に立つはずですから。ほか、3S(整理・整頓・清掃)活動も続けています。モチベーションを保てるように地場の3社と共同してお互いに視察し合っているんですよ。
■他社と共同での3S活動いいですね!
川口氏:やる気が出ますよね(笑)。指摘をいただくこともあるし、時には褒められることもあったりして。弊社はマイペースな集団で各自に任せている部分も多いのですが、「お客さまが困っているときに一丸になれる人たち」という自負が私にはあるんです。
以前、あるお客さまが鉄の塊を炉から炉へ移動させている途中、クレーンが停止するトラブルに見舞われました。鉄塊はむき出しの状態で、その温度が500度以下まで低下すると1,000万円以上の損失を被る事態です。「御社は局部加熱もできましたよね!?」とお電話いただき即現場に駆け付けました。一刻を争う事態の中で営業職は即刻契約を交わし、技術職は機材を積み込み、速やかに段取ってお客さまをピンチから救いました。その彼らの姿が、映画「アルマゲドン」に重なるくらい本当にカッコよくて。こういう事例を積み上げて信頼を勝ち取っていこうと皆で話しました。困ったときに「熱産ヒートなら何とかしてくれる」と顔を思い出してファーストコールがいただける、そんな日頃のお付き合いをしていこう、と。
■素晴らしいです。今度の大阪万博にはどのような技術を出展されるのでしょうか。
川口氏:弊社の研究開発は加熱装置がメインですが、別軸として廃熱を利用した発電技術の確立にチャレンジしています。万博はその分野で9月頭の3日間「TEAM EXPOパビリオン(共創チャレンジ)」に出展予定です。(※取材後、ご出展が確定されました!)
■「北九州ものづくり光継会」をはじめ様々な活動をされていますが、川口社長から見た北九州市の魅力、期待することをお聞かせください。
川口氏:ものづくり光継会は20年ほど前に北九州市が地元企業の後継者向けに開いてくださった講座が始まりです。修了後、せっかくの出会いだから交流を続けようと有志で会を発足し、今も勉強会を開いています。外部の方を講師に招いたり、時にはメンバー経営者の失敗談を聞く「しくじり先生」のような企画をしたり。様々な活動をしていると素敵な人がたくさんいるのが北九州の良さの一つだと感じます。街や自然、モノづくり、そういう魅力を融合しようと活動している人もいる。人好きのする人が多いですよね。地元としての愛着もありますが、何より関わっている人たちのことが好きなんだと思います。
これは北九州への期待とは少し違いますが、熱処理業界をもっと知ってもらいたいです。冶金学、金属工学といった学びの場が年々縮小されているのですが、学校で学べないことを子どもたちが職業として思い描くのは難しいと思うんです。同業の先輩方とも「万博が終わったら次はフォーラムをやろう!」と熱処理業界の地位確立に向けて私たちも頑張っていきたいと考えています。
■最後に、大切にされている言葉を教えてください。
川口氏:「前向きは技術」です。もって生まれた素質も多少あるかもしれませんが、前向きに考えたり事を進めるのは磨くことができる技術だと思うから。だから「前向きでパワーがあるね」と言っていただけるなら「技術を磨いております!」とお返しします(笑)。
■川口社長、本日は貴重なお話をありがとうございました!
取材日:令和6年1月20日(月)
【編集後記】
●まだ男性的なイメージが強い時代に、鉄の業界で後継者の道を選んだ熱産ヒート株式会社の川口千恵子社長。同世代の濱村社長とは境遇が重なる部分も多いからでしょうか、今回も想定時間を超えてたくさんお話を伺わせていただきました。
●10年間の営業職を経て取締役社長に就任された川口社長。社内外の方々に温かく迎えられたご就任の裏で、「社長の自分とプライベートの自分が一致するまでに時間がかかりました。当時はドリームマップを作成しても個人的な夢は浮かんでくるけれど、社長として会社でやってみたいことが1つも浮かばなくて」と本音も。この言葉に「自分の中に2人の自分ができるので。折り合いをつける、行き着くまでに道のりがありますよね」と濱村社長も頷いておられました。
●専門的な熱処理技術について非常に分かりやすくご説明くださった川口社長ですが、ご本人いわく「ばりばりの文系」。言われてみると、熱産ヒートさまのコーポレートサイトもBtoB企業では類を見ないほど分かりやすいんです。特に「学生の皆さんに意見を聞きながら表現を工夫した」という採用情報ページは、就活中でなくとも事業内容を知るのにおすすめですよ。
「熱産ヒート株式会社 採用ページ」はこちら (外部リンク)
●まず目標を定め、達成までの道筋を逆算する「バックキャスティング」の手法で夢を叶え続けている川口社長。大阪万博への出展もその一つです。2018年に設定したゴールはもう目の前。皆さまも熱産ヒートさまの万博出展にぜひご注目ください!
●本文の最後に登場しましたが、川口社長が大切にしている言葉は「前向きは技術」。興味深いエピソードを終始、笑いを交えながら楽しくお話しくださった最後にこの言葉を伺い、納得すると共に改めてそのお人柄にシビれました。
川口社長、お忙しい中貴重なお時間を頂戴しましてありがとうございました!
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