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地域密着!トップインタビュー/第40回小倉自動車学校 社長 辰本誠一郎様

 今年で開校56年目を迎えた、小倉自動車学校さま。日本の車社会を幕開けの時代から支え、ドライバーの安全運転に貢献してこられた同校は、今日の18歳人口の減少、若年層の車離れという時勢に、組織力強化と新たな事業開拓で挑戦を続けておられます。辰本誠一郎 社長にお話を伺いました。



【小倉自動車学校 社長 辰本誠一郎様】

運転免許という商品が同じだからこそ「人材の魅力」で差がつく。

■日本で一般家庭に自家用車が普及し始めたのは昭和30年代半ば以降といわれます。御校はまさにその時代、昭和39年5月に開校されました。起業の経緯からお聞かせいただけますか。

辰本社長:事業を起こしたのは私の曾祖父です。「これからは車の時代になる」と所有していたこの土地を使って小倉自動車学校を開校しました。現在、会長職に就いている父は当時サラリーマンでしたが、開校を機に辞職し、学校経営に専念。高齢の曾祖父に代わり、実質的には父が経営者として弊社の礎を築いてきました。その父から代替わりし、私が社長のバトンを引き継いだのが10年前です。
 すでに10年前には18歳人口は減少傾向にありました。自動車学校のお客さまは、高校生・大学生・専門学校生が中心ですから、若年層の人口減少は入校者数のパイの減少であり、弊社においても大きな課題です。厳しい状況の中で、見直しを始めたのが人材に着目した組織力の再構築です。

■どのような取り組みですか?

辰本社長:弊社は今年9月から55期に入りましたが、50期が一つの転機になったと考えています。それまで弊社は明確な企業理念がなく、また経営方針を社員と共有する機会も設けていませんでした。そこで50期を「再創業元年」と位置づけ、企業理念を打ち出し、初の経営計画発表会を実施しました。
 さらに翌51期の経営計画発表会からは、会長や私だけでなく、各部署の責任者やリーダークラスの社員にも自身の考えを発表する場を設けました。初めての試みでしたが、やってみると「こうすれば会社が良くなる」と皆が自分なりの考えを軸に期待以上の発表をしてくれた。これは嬉しい驚きでした。そして面白いことに、こうした取り組みに比例するように売上も伸びていったんです。

■興味深いお話です。今期も何か新たな取り組みをお考えですか?

辰本社長:新しい人事評価制度の確立に向けて動いています。これまで弊社の人事評価は、特に能力給において基準が曖昧でした。何をどう頑張れば昇給できるのか分かりづらかったわけです。新しい評価制度では、一定の期間内に自分が達成すべき目標を社員自身が決めます。一人ひとり自分の得意を活かした目標を設定することで、達成の道筋も見えやすくなる。成果は本人と上司が評価し、その評価が給与にどのくらい反映されるか明確にわかる仕組みの導入等も検討しています。
 お客さまが自動車学校に来る目的は「運転免許の取得」ですから、極論をいえば、どの学校を選んでも得られる結果は同じです。その中で差別化を図るカギは「社員の力」にあると私は考えています。特に指導員の能力は重要です。技能教習の規定はオートマチック車が31時限、マニュアル車は34時限。お客さまはできれば早く卒業したいでしょうし、また楽しく分かりやすい教習を目指すためにも優れた指導力が不可欠です。
 50期の再創業元年に私たちは企業理念として「思いやりの心」を掲げました。人を思い遣る心は「人はそれぞれ違う」という多様性の理解から始まると思います。お客さまもお一人おひとり違います。同じ技能を習得するにも、先に要点を聞いてハンドルを握る方が分かりやすい方、運転しながら指導されたい方、運転中はうるさく言われたくない方、本当に様々です。相手本位の教え方ができる優れた指導員には人気が集まりますし、SNSなど口コミで広がり、卒業生からの紹介にもつながっていく。
 こうした理解も深めながら、指導員をはじめ、社員の日々の頑張りをしっかり評価していくことで組織の士気をいっそう高めていきたいと考えています。

■若い世代を中心に車離れが進む中で、従来の免許取得とは異なる新たな事業展開があればお聞かせ願えますか。

辰本社長:日常的に運転する人が減っているということは、言い換えれば「運転慣れしている人が減っている」ということ。ペーパードライバーや免許を持っていても運転が苦手な人は増えていくと考えています。しかし、運転を必要とする仕事は多い。今までは「運転できること」を募集条件にできましたが、今後は「免許を持っていること」が条件で、採用後に運転の再教育が必要になるケースが増えてくるのではないでしょうか。
 そこで構想しているのが、運転の再教育サポートです。現在も、新入社員の方や事故違反した方に向けた企業向けの運転研修を行っていますが、より高度化した専門コースの展開を考えています。例えば、リスクヘッジのための事故防止コース、社外の人を乗せる仕事向けの乗り心地技能コースなどです。

■弊社も業務の中で運転するシーンが少なくありません。御社の企業向け研修も新人研修等でお世話になっています。

辰本社長:運転ができてもハラハラするようなレベルでは仕事になりませんし、万一、交通事故となれば個人はもとより、企業にとっての損害も非常に大きい。現在行っている企業研修は数時間程度ですが、想定しているのは、例えば座学5時間、技能講習10時間など相応の時間をかけた、より質の高いカリキュラムです。アクセル・ブレーキ・ハンドルの基本操作から、進路変更のタイミング、危険予測、渋滞予測まで、目標とするレベルの技術をしっかり習得していただき、「小倉自動車学校のあのコースを修了しているなら相応の運転技術がある」という、民間のお墨付きを得られるものを確立させたい。従来の「免許屋」から「運転屋」への転換を図ることで、次代のニーズに応えて参りたいと思います。

■代替わりされて10年ですが、ご就任当初からそうした新しい発想で経営に取り組んでこられたのでしょうか?

辰本社長:性格的にチャレンジ精神は旺盛ですが、実は就任当初は失敗の連続でした。現場を長く経験した自負から「自分は現場が見えている。社長になったらあれもこれも変えてやる」と気持ちばかりが熱く、経営の何たるかがまるで分っていなかったんです。そのうえ躍起になっていますから、会長に何一つ相談しない。うまくいかなくて当然です。業績がいよいよ悪化し、上からはプレッシャーをかけられ、社員は「期待外れだった」と離れていって…。ようやく自分の間違いを認め、会長に非礼を詫びて教えを請うため腹を括るまで私は3年かかりました。
 これから事業承継をする方に、経験からお伝えさせていただくとすれば(言わせてもらえるとすれば)「改革は成果を出してから」。まずは、今まで築かれたシステムをそのまま引き継いでやってみる。一見おかしいと思うことも、裏には妥当な理由があったりしますから。実績を上げて信頼を得てから、新しいことを始めた方がいいと思います。
 尊敬する経営の大先輩は常々「親を大事にせんのに、お客さまを大事にできん」と仰いますが、本当にその通りです。今は会長、そして社員に心から感謝しています。

■最後に座右の銘を教えてください。

辰本社長:最近気に入っているのは「知覚動考(ちかくどうこう)」です。まずは知り、それを覚え、動いて、考えるという仏教の教えですが、読み方を変えると「ともかく動こう!」。私もそうですが、失敗したくないと思うと、先にあれこれ考えすぎて結局やらないことがあります。ある程度の知識や方法を覚えたら、まず動いてみて、その結果を踏まえてから考える。そうやって新しいことにチャレンジして踏み出すことで、企業も成長していけるのだと思います。

■辰本社長さま、本日は貴重なお話をありがとうございました!
 


 

【編集後記】

●今年で開校56周年を迎えた小倉自動車学校様。皆さまの中にも卒業生の方がおられるのではないでしょうか。賃貸マンションの管理を弊社が承っており、また辰本社長は濱村社長の高校の先輩というご縁もあってインタビューは2時間半に及ぶ盛り上がりでした。

●文字数の関係で本文に入りきれませんでしたが、なんと隔月発行の社内報は辰本社長が手作りされているそうです。発行のきっかけも素敵でした。

●それは、ある社員様ご家族のひと言から。繁忙期、休日返上で仕事へ向かう背中に「パパは仕事ばっかり。私たちのことはどうでもいいんやね、と言われた。家族のために働いているのに…」。肩を落とす社員様のお話しを受け、「お客様にどれだけ感謝されているか、職場でどれだけ頼りにされているかを、なんとかご家族に伝えたいと思って」と辰本社長。自ら取材記者となって(!)お客様や社員様にインタビュー。職場での奮闘ぶりを伝える記事を約4年にわたって社内報で執筆し続けていらっしゃいます。「社内報は給与明細の袋に同封しています。いちばんご家族の目につきやすいでしょう(笑)」

●そんな辰本社長のいちばんの趣味はヤマメ釣り。ご自身で毛針も手作りされるそうで、「どんな毛針を使うか、それを川のどこに投げるか、目的のところに投げるのも練習が必要で、あれこれ手間がかかるのが面白いですね。気兼ねしない1人の時間が好きなんです」

●辰本社長、お忙しい中たくさんの貴重なお話をありがとうございました!

取材日:令和元年8月27日(火)