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第41回 地域密着! トップインタビュー/日本製鉄株式会社 薄板事業部 ブリキ営業部長 三好忠滿様

 北九州のものづくりDNAを象徴する官営八幡製鐵所。その歴史を継承する日本製鉄八幡製鉄所はこの春、「九州製鉄所・八幡地区」に組織再編し、新たな展望を掲げておられます。鉄の可能性へのチャレンジ、環境への取り組みなど三好忠滿 部長にインタビュー。2号に分けてお届けします。


【日本製鉄株式会社 薄板事業部 ブリキ営業部長 三好忠滿様】

官営八幡製鐵所から継ぐ「ものづくりDNA」。
鉄の可能性を追求し、鉄を極める。

■今年4月1日に改称された「九州製鉄所 八幡地区」についてお聞かせください。

三好部長:日本製鉄は北九州に戸畑・八幡・小倉の3つの製造拠点を有しています。この3地区を「八幡製鉄所」としていました。この春に弊社は、製造現場での課題解決力を高めることを狙いとして、全国16の製鉄所・製造所を大ぐくり化し、6製鉄所へ再編しました。
それに伴い、八幡製鉄所、そして大分・山口の拠点を「九州製鉄所」と改め、八幡製鉄所は「九州製鉄所八幡地区」となりました。どうぞよろしくお願いいたします。

■官営八幡製鐵所から継承する歴史をどのように捉えておられますか?

三好部長:官営八幡製鐵所は1901年、日本初の銑鋼(せんこう)一貫型の近代製鉄所として誕生しました。「銑鋼一貫」とは鉄鉱石や石炭から鉄を取り出し、鋼材にするまでを1つの工場で一貫して行うものです。当時は鋼材の大半を輸入に頼っており、近代国家を目指すうえで鉄の国産化は大きな課題でした。日本の未来を背負い、国家の一大プロジェクトとして建設されたのが官営八幡製鐵所だったのです。
 日本初の挑戦ですから最初は苦難の連続。東田第一高炉の完成後も、鉄を本格的に生産できるようになるまで約3年かかっています。しかし、操業開始から10年後には年間10万トンの鋼材を産出するに至り、国内需要の90%を担うまで成長を遂げました。日本の発展に多大な貢献を果たした先人たちの「ものづくりDNA」を源流とすることは私たちの大きな誇りです。

■現在、八幡地区ではどのような製品を作っておられるのでしょうか?

三好部長:八幡地区は、製品のバリエーションにおいて社内でも群を抜いています。自動車のボディに用いられる鋼板、缶詰や缶ジュースに用いられる容器用鋼板、大きなものでは高速道路や港湾などの建材に使われる土木建設用鋼管なども製造しています。鋼板、鋼管など呼び方こそ馴染みが薄いかも知れませんが、身近なものにも使われているんですよ。例えば「電磁鋼板」は、磁気と電気のエネルギー変換を効率的に行う高機能材料で、エアコンや冷蔵庫などの家電製品、電気自動車やハイブリッドカーの部品素材に使われており、製品の省エネや燃費向上に貢献しています。
 省エネ家電、電気自動車といった次世代型の製品を含め、鉄が様々な分野の製品に幅広く利用されるのは「製造方法によって性質を多様に変化させる」という面白い特性を持っているからなんです。例えば鉄の組織を制御して、組織を同じ方向にしたり、逆にバラバラにすることで同じ鉄でも電気を通したときの送電率が大きく違ってきます。圧倒的に送電率の高い鉄を家電の部品に使えば、それが省エネにつながるわけです。メーカーが理想に描く製品像に貢献する、新たな性質を備えた鉄を開発する技術力、開発力も製鉄所に期待される役割の一つです。

■八幡地区でしか作られていない製品もありますか?

三好部長:鉄道用レールは社内でも八幡地区でしか作られていません。新幹線から在来線まで国内で使用されている鉄道用レールの約70%を八幡地区が生産しています。世界最長150mのレールを製造し、しかもその長さのまま出荷します。従来は20~25mに切断して出荷していましたが、特殊貨車を用い、長いまま輸送できるようになりました。
 ロングレール輸送を可能にしているのは、鉄道用レールの鉄の特性にも理由があります。先述の通り、鉄は作り方しだいで様々な性質を持つことができます。鉄道用レールの鉄は上からの衝撃には非常に強く、一方で、横から加えられる力にはとても柔軟でいくらでもたわむことができる特徴があります。ですから輸送の際も貨車がカーブを曲がれば、積まれているレールも柔軟にたわみ、貨車が直線的に走ればレールの形状も直線になる。これを繰り返しながら北九州から遠くは東北まで、線路がある場所ならどこへでも150mのレールを運んでいけるのです。

■ものづくり企業として大切にしておられることをお聞かせください。

三好部長:日本製鉄グループは「常に世界最高の技術とものづくりの力を追求し、優れた製品・サービスの提供を通じて、社会の発展に貢献する」ことを企業理念に掲げています。これを掘り下げると3つの視点があるように思います。
 1つ目は、安心・信頼です。鉄はあらゆるところに使われる素材ですから、私たちのお客さまをはじめ、エンドユーザーの皆さま方に安心して使っていただける信頼がまず大前提です。
 2つ目は、可能性の追求です。鉄は資源として豊富なうえに安価。そして、多様な性質を発揮する可能性を持っています。その可能性を追求し、豊かな社会づくりや、人の生活、地球環境に貢献すること。「鉄を極める」ことも私たちの大きな使命だと考えています。
 3つ目は、エコロジーの視点です。鉄は「アルミや炭素繊維と比べて重量があり、素材に使うのはエコではない」と思われがちですが、それは誤解です。高強度ながら軽量な新しい鉄も次々に開発されていますし、そもそも鉄は「何度リサイクルしても品質が低下しない」という非常に優れた特長を備えています。本来の性質を持ったまま同じ製品の原料として無限にリサイクルできるのは、あらゆる素材の中でも鉄がほぼ唯一です。

■鉄とエコロジーは相反するものと誤解していました。詳しく教えていただけますか?

三好部長:私たちには3つのエコの視点があります。まずは「エコプロダクツ?」。製品そのものの耐久性や省エネ性を高めることで、長寿命、高効率、リサイクル性の高さなどを実現しています。次に「エコソリューション」として、環境・省エネ技術を使った貢献があります。自治体などから廃プラスチックの容器や包装材を受け入れ、ほぼ100%を再資源化する取り組みもその一つです。その量は年間およそ20万トン。全国で回収される量の約3割を弊社で処理し、再資源化しています。
 そして「エコプロセス」。製鉄所は燃料、電力、水とたしかに膨大なエネルギーを消費しますが、反面、そのリサイクル率の高さはあまり知られていません。八幡地区の工業用水のリサイクル率は実に90%。鉄の冷却など高熱によって蒸発してしまう10%を除く全ての水を製鉄所内で再生し、繰り返し利用しています。また、製造工程で発生する副生ガスは100%回収し、発電のエネルギーに。所内の必要電力の78%を私たちは自家発電でまかなっています。
 また、資源も有効利用しています。鉄を取った後の鉄鋼スラグはセメント材や土木工事用の資材、地盤改良材などに再利用されますし、ユニークなところでは田畑の肥料としても利用されています。もとは自然の石ですから、植物の光合成を活発にするケイ酸、根腐れ防止効果のある鉄分など、栄養分が豊富に含まれていて土づくりに役立つんですね。八幡地区の鉄鋼スラグを肥料に育った酒米の地酒もあるんですよ。海の磯焼け対策などでも使われていて実績を上げています。
 製造から再利用までライフサイクルで見ると「鉄は圧倒的にエコ」。その理解を広げていくことも必要な取り組みだと考えています。

(インタビューは9月号・後編に続きます。)